東堂×巻島 ※微エロ

そこに君がいるから 〜オマケ〜

 「そこに君が居るから」のオマケです。バカップルが触りっこしてます。
 微エロで微妙に品がありません。




 東堂の肉体はきれいだと思う。
 少年特有の、大人になりきれない未分化な部分は残るものの、未成熟だが骨格は形よく整っていて理想的なつくりだった。まだ厚みに欠ける筋肉の層も、数年後には誰もが羨む強靭さを備えるのは決定的だ。
 走り、登り、下り、すべて力に特化した良質の肉体。
 これであの趣味の悪いカチューシャと、人の話を聞く努力を放棄した脳みそが頭部に無ければ完璧だ。
 ちなみに顔の造作も嫌いではない。本人曰く、美形美形と煩い顔の出来も肉体同様、数年ほど経過すれば言葉に実が篭るはずだ。はっきり口にするとへこんで拗ねるから言わないが、今はまだ「可愛い顔」のレベルでしかない。
 たった一年で驚くほど大人びた容貌となった巻島は、なだらかな腹筋に目をやりながら大盤振る舞いの溜め息を押し殺す。理想的な東堂の肉体を見るたび、お世辞にも均整が取れているとは言い難い自分の身体に、ちょっとした劣等感を感じてしまうのだ。
 引き締まった東堂の腹部を撫で、無駄のない感触を楽しむ。贅肉が皆無の腹部は、爪を立てても皮しか摘めないだろう。
 巻島の白い腹部にも贅肉は無いが、彼の場合は細長い手足の印象が強いせいか、引き締まっているというよりも痩せている印象がより強かった。
「巻ちゃんさぁ……オレに見惚れている?」
 やたら楽しげな声に素直に頷くのは癪だった。たとえそれが事実だったとしても、だ。
「いや、皮がないと思っていただけショ」
「それってオレの腹筋に見惚れていたってことだろ? 巻ちゃん、素直にならんといかんよ?」
 後輩に筋トレが好きな奴が居てさー、そいつからこの美形にふさわしいパーフェクトボディを云々。股間を晒して威張ることか、それが。
 多大な犠牲を払っても素直になりたくない状況を作り出す東堂は、ある意味、空気クラッシャーの天才だ。
 整った爪の先で、頭を擡げた東堂の紅色の先端を弾く。
「ココの話っショ?」
「そこ! そこなのかよっ、巻ちゃん!? いや確かにオレはちゃんと剥けているけど……」
 誰も東堂の肉体秘話まで聞いてない。
 自分で話を振ったくせにうんざりしながら、巻島は掌で先端に包むように東堂に触れた。
 かすかに詰まった呼吸が耳へすぐ届く。それもそのはずだ。今、二人の距離は限りなく近かった。
 向かい合わせにベッドに座り、互いに脚を交差させて相手の腰を跨ぐような格好をしている。無防備に曝け出した身体が巻島は気恥ずかしい。おまけに部屋の灯りは、中途半端に明るいシェード型のベッドサイドランプひとつきりだ。
 就寝前に読書を楽しめるように設計されたそれは、ベッド付近は充分な照度があるが、それ以外は薄暗い夜が隅々に有ると知らしめている。
 失敗だった……巻島は後悔したが、もう後の祭りだ。
 巻ちゃんの全部が見たい見たい見たいと、部屋の照明を点けたまま事を成就させようと駄々をこねた東堂の意見を、珍しく巻島は却下してやった。その折衷案としてベッドサイドランプを点けるというものだったが、明らかに逆効果だと東堂スポイル研究所の所長は後悔しまくっている。
 ベッドサイドランプの照度は一定部分のみが明るいため、少しでもその範囲から外れると陰影が深く濃くなってしまうのだ。つまり範囲ギリギリにいた東堂のきれいな肉体に刻む陰影は、巻島の情欲的には非常に宜しくない状態ということだ。
 これならまだ煌々と部屋を明るくしていた方がマシだった。自分の身体を見られたとしても、東堂のきれいな肉体と相反する暢気な顔が、艶かしい体つきを相殺して精神に余裕が持てたからだ。
 ……深みに嵌っている気がするっショ。
 いまさら気づくとは鈍い男である。
 こうなったらさっさと終わらせて、この泥沼から抜け出さなくては……と、切ない十代の劣情を持て余した巻島は奮起する。この際、自分が底なし沼に下半身まで浸かっている事実は見ないふりだ。
 気を取り直した白い掌が東堂の先端を一撫でする。屹立こそしているが、彼の先端は乾いたままだった。……過敏な箇所の強い刺激は避けた方がいいと、巻島は手を放して自分の掌を口元へ持っていく。唾液で掌の窪みを濡らし、改めて東堂の先端へ被せた。
 ちらりと目の端に、自分の下肢へ東堂の指が伸びた様子が見える。かすかな期待と羞恥が綯交ぜになり、伸びた指先の行方を気にしないふりで他人の熱を弄い始めた。
「……ッ、ひ……っ!」
 壊れた笛のような悲鳴は巻島から。思わず東堂の熱を育てていた手が竦んで離れてしまった。
「巻ちゃん、もっと触ってくれなきゃ」
 笑い含みの声が耳朶を舐める。びく、びく、と、巻島の白い腹が揺れた。
「……お、前……そこ、は……っ」
「オレは巻ちゃんの弱いところなんか、お見通しだからな」
 稚気に溢れたはずの声音が、巻島の鼓膜に到達した頃には男の艶に変化する。声だけではなく、成長しきっていないはずの指先も同じだった。
 東堂の指は、半ばまで頭を擡げた巻島自身には触れていなかった。彼の手は、正確には中指だけが巻島の臍の窪みを穿っていた。
 狭い窪みを綻ばせるように指は蠢く。そのたびに巻島の身体は捩れ、震え、痙攣に似た動きを繰り返す。
 直接触れられてはいない劣情の証が、あっという間に東堂の手の甲を打った。
「ずるい、ずるいよ、巻ちゃん。自分だけ気持ちよくなっちゃあイカンよ」
 鼓膜まで愛撫する声の持ち主が、空いた片方の手で巻島の右手を掴む。そして同じくらい張り詰めた自分の下肢へと導いた。
「……巻ちゃんを見ていただけでこんなになるって、おかしいだろ?」
 巻島は気づいた。余裕がある体を装いながらも、口調は切羽詰って早くなっている。
 深い陰影を刻んだきれいな肉体を見て巻島が欲情したように、白い肌を躍らせた自分の姿に東堂は情欲を煽られたのだろうか。
 そう思っただけで、臍の裏側を中心にずくんと重い熱が渦巻いた。
「……お、おかしい、に、決まって、る、ショ?」 
 酷いなあ……そんな言葉を呟きながら弄っていた窪みから指が離れ、今度は露を滲ませた巻島自身に触れる。同じように巻島も東堂の昂ぶりに触れた。
 かすれた声に混じる摩擦の音は湿りを帯び、どちらとも知れない淫らがましい響きは区別さえつかなくなる。
 ただでさえ近かった距離がじりじりと隙間を詰め、気がつけば額を寄せ合うように互いの昂ぶりを求め合っていた。



 「とりあえず、今回はスイマセンでした」
 浴衣の前は全開、下半身は丸出しのまま、ベッドの上で正座した東堂が深々と頭を下げていた。苦りきった巻島はそんな姿に目もくれず、荒い呼吸をごまかしながら、床に投げ捨てられた下着を手探りで探している。人の下着をなんだと思っているのか。豪快に投げ捨てられた下着はまだ見つからない。
「お前の謝罪には政治家なみに誠意がないっショ」
「失敬だな! 誠意はあるぞ! 悪意もあったけど!」
 なぜ威張る。胸を張るな、それ以前に股間を隠せ。
 いろいろ突っ込みたかったが、下着の行方を突き止める方が先決だった。
「一回のつもりが二回、二回のつもりが三回になったのは、若さゆえの過ちだと気にしない方向性で行こう、巻ちゃん」
「お前が言うな!」
 ようやく下着が見つかった。
 巻島がのろのろ起き上がる。さすがに三回は疲れた。確か射精の消費カロリーは、一回で百メートルを全力疾走するカロリーに等しいと聞いたことがある。しかも三回。疲れるはずだ。
 目を向ければ正座の謝罪会見はとっくに終わっていて、東堂は胡坐をかいて暢気に寛いでいた。
 だから、前を隠せ。
 目の毒だろう。
 そこまで思って巻島は我に返った。
 目の毒。それはまだ自分が、東堂のきれいな肉体に劣情を抱けるという事実ではなかろうか。
 溜め息が出た。
 我侭な東堂に対してではない、自分自身の愚かさに向かって出た溜め息だった。
「東堂、浴衣直してやるからこっちへ来るっショ」
 
 ばかばかしい話だが、本当にばかばかしいが、東堂の言葉を借りて言うなら、若いってコトは確かにいろいろ大変だ。


                                終